消防点検コラム

消防法

2022.10.26

知っておきたい「2以上の直通階段」の意味や設置条件

万が一の火災発生時に避難する場合、非常階段を使って避難しなければいけないことは、多くの人が知っていることと思います。

 

しかし、非常階段とひと言で言っても様々な種類があることは知られていないようです。とくに、消防法や消防設備士の試験にむけて勉強している人は階段設備についても深く理解しておかなければいけません。

 

階段設備の中で頻繁に耳にするのが「直通階段」です。直通階段は2系統設置しなければいけないなどと聞いたことがあるかもしれませんが、実際のところはどうでしょうか。

 

この記事では2以上必要とされる直通階段について、基本的な知識や法律のルールなどを交えて紹介します。

 

直通階段とは

 

「直通階段」とは、各階において、次の階段への経路が明瞭で、避難階または地上まで直通している階段のことです。

 

上の階から下の階まで、経路が単純で、かつ最短距離で移動できる階段を指しています。

 

例えば、階段の途中で扉が設置している場合や、階段の途中で廊下がある場合、途中階から別の階段を使う構造などは直通階段としては認められません。

 

また、建築基準法(第120条)では、建物内の居室から直通階段までの歩行距離も厳密に定められており、居室から直通階段までは30メートルから50メートル以内(居室の主要構造によって異なる)と決まっています。

 

直通階段をごく簡単に言うならば、緊急時の避難を目的にし「最短距離(居室から避難階または地上まで)」と「連続性」を備えた階段と言えるでしょう。

 

「その階段だけを使って迷わず最短距離で地上に出られるかどうか」と考えると分かりやすいかもしれません。

 

ちなみに、建築基準法では階段の種類は4つあります。「(ごく一般的な階段)」「避難階段」「特別避難階段」そして「直通階段」です。

 

それぞれで必要な建築物や設置条件が異なるため、厳密な違いを理解する必要があります。

 

直通階段が必要な建築物の用途と規模

 

直通階段は建築基準法によって、以下のような建築物および用途、規模で必要と定められています。

 

 

上記に該当する場合は直通階段の設置が義務付けられます。対照的に、特殊建築物に該当せず、2階建て以下で無窓居室がない建築物の場合は、直通階段は必要ありません。

 

例えば、2階建ての戸建て住宅で床面積が1,000平方メートル未満の場合、直通階段は必要ありません。

 

しかし、3階建ての戸建て住宅で床面積が1,000平方メートル未満の場合、直通階段が必要になります。

 

理由は、建築基準法で定められている「階数が3以上である建築物」に該当するためです。ただし、戸建て住宅の場合は利用者が特定されていることから「多少の曲折があっても階段が明らかであるものは直通階段に該当する」と、法を緩和しています。

 

つまり、3階建ての戸建て住宅の場合、厳密には直通階段が必要になりますが、階段の途中で扉や廊下を設けたりせず、速やかに地上へ到達できるような階段であれば問題ないということです。

直通階段の位置

 

直通階段の位置についても建築基準法で定めてられています。

 

建築基準法では、直通階段は居室から階段までの歩行距離で規定されており、その距離は「居室の種類」と「居室の主要構造」によって異なります。

 

例えば、多くの人が集まりやすい百貨店やマーケットなどは、主とする居室から「30メートル以内」に直通階段がなければいけません。

 

また、15階以上にある居室は、規定距離から「マイナス10メートル」が適用される可能性があるため、管轄の消防署に確認した方が良いでしょう。(自治体によって規定が異なることがある)

 

直通階段までの距離の算出方法

 

実は、直通階段までの歩行距離を算出する際、居室のどの部分を起点とするかについては、自治体によって見解が異なります。

 

例えば、大阪府内建築行政連絡協議会が発行している建築基準法及び同大阪府条例質疑応答集〔第6版〕(〈令 120 条〉直通階段の設置 P.30)は原則として「居室の壁面から50センチの位置の最長距離とする」と述べています。(家具の配置によっては斜め歩行もやむを得ないとしている)

 

一方で、その他の自治体では「居室の奥隅から斜め歩行の距離」を採用していることもあるため、直通階段までの距離の算出方法については一概に断定できません。

 

大阪府の規定通りに算出する場合と、一般的な斜め歩行(部屋を対角線に移動するイメージ)による計測では、直通階段までの距離が変わる可能性があります。

 

したがって、直通階段までの距離については、申請先となる自治体のルールを確認するようにしましょう。

 

直通階段の有効幅・蹴上・踏面の寸法

 

直通階段の有効幅、蹴上(けあげ)、踏面(ふみづら)の寸法は、建築基準法施行令23条で定められています。

 

直通階段の寸法は以下の通りです。

 

  • 有効幅:90センチメートル
  • 蹴上:23センチメートル以下
  • 踏面:15センチメートル以上

 

直通階段の寸法を理解するうえで知っておきたいことが、直通階段を「屋外階段」として設置するケースです。

 

一般的に、屋外階段の有効幅は60センチメートルまでとされており、屋内階段の75~140センチメートルと比較して幾分条件が緩和(狭くてもよい)されています。この理由としては、屋外階段を日常的に利用するケースが少ないことが挙げられます。

 

しかし、直通階段を屋外に設置する場合は60センチメートルではなく「90センチメートル」までしか緩和されないのです。

 

例えば、ただの屋外階段として階段を設置するなら、有効幅は60センチメートルとなりますが、直通階段としての屋外階段だとすると、有効幅は90センチメートルが適用されるということです。

 

直通階段が屋外に設置される(屋外階段)の場合、有効幅の緩和が厳しくなることを知っておきましょう。

 

この理由は「直通階段は緊急時の避難に使用される」ためで、屋外であったとしても直通階段には円滑な避難を可能にする条件が求められるのです。階段の有効幅が広いということは、避難時の混乱を防ぐことにも繋がります。

 

なお、蹴上と踏面についての緩和措置はありません。

 

2以上の直通階段

 

ここまで、直通階段の基本的な仕組みや条件について解説してきましたが、より複雑なケースとして頻出するのが「2以上の直通階段」です。

 

建築基準法第121条で定められている内容で「建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる二以上の直通階段を設けなければならない。」とあります。

 

ごく簡単に言うと、建物の用途や階数によっては、直通階段を2系統用意する必要があるということです。

 

ただし、直通階段が2系統必要になるかどうかについては、複雑な条件が設定されているため、慎重な判断が求められます。

 

次で詳しく解説します。

 

2以上の直通階段が必要な条件一覧

 

2以上の直通階段を設置しなければいけないかどうかは「建物の用途」と「階数」によって以下のように区別されています。

 

建築基準法用途5階以下6階以上
第百二十一条 一劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場条件(*1)により設置緩和規定なし
第百二十一条 ニ物品販売店舗条件(*2)により設置緩和規定なし
第百二十一条 三キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、バー、個室付浴場業、性的好奇心を提供する施設、ヌードスタジオなど緩和規定あり緩和規定なし
第百二十一条 四病院、診療所、児童福祉施設条件(*3と*4)により設置緩和規定なし
第百二十一条 五ホテル、旅館、下宿、共同住宅条件(*5と*6)により設置緩和規定あり
第百二十一条 六その他の施設条件(*7と*8)により設置緩和規定あり

 

このように、原則として2以上の直通階段を設置する必要がある条件は、建物の用途と階数によって区分されていますが、さらに「構造部の材質」や「床面積」などの条件も加わることもあることを覚えておきましょう。

 

*1:客室・集会室などがある階

*2:物販店舗がある階の床面積が1,500㎡を超える階

*3:主要構造部が準耐火構造または不燃材料の場合で、診療所の用途に供する階でその階における病室の床面積100㎡を超える(101㎡以上)。児童福祉施設の用途に供する階で、主たる用途に供する居室の床面積100㎡を超える(101㎡以上)

*4:主要構造部が*3以外の場合は50㎡(51㎡以上)

*5:主要構造部が準耐火構造または不燃材料の場合で、旅館・下宿に供する階で客室・寝室の床面積の合計200㎡を超える(201㎡以上)。共同住宅に供する階で居室の床面積の合計200㎡を超える(201㎡以上)

*6:主要構造部が*5以外の場合は100㎡(101㎡以上)

*7:主要構造部が準耐火構造または不燃材料の場合で、避難階の直上階床面積400㎡を超える(401㎡以上)

*8:主要構造部が*7以外の場合は200㎡(201㎡以上)

 

2以上の直通階段に関する規制緩和の条件

 

上記表において「緩和規定あり」と表記されている場合、以下3つの条件すべてを満たしていれば、2以上の直通階段を設置しなくても良いとされています。

 

  • 居室の床面積の合計が100㎡以下であること
  • 避難に有効なバルコニー、屋外通路が設けてあること
  • 屋外避難階段または特別避難階段が設置されていること

 

まとめ

 

直通階段は非常時に迷わず最短で地上へ出るために使用される重要な存在です。しかし、直通階段を理解するためには設置条件や緩和措置などについても把握しなければいけません。また、自治体によって法の解釈が異なる場合もあるので注意が必要です。

 

なかでも「2以上の直通階段」については、設置条件や緩和措置が複雑になっているため、建築基準法と消防法をよく読んで理解するようにしましょう。

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