消防法
2023.07.26
消防法の「無窓」をわかりやすく解説
消防法でよく見る「無窓」ってどういう意味?や、消防法における無窓の定義ってどういうもの?といった疑問を持ったことがある人は多いのではないでしょうか。
消防法における無窓の意味はとても複雑であり、その位置や面積などに細かな規定があります。
また、無窓階と判定された場合は、設置しなければいけない消防設備の要件が厳しくなったり、それに伴うコスト負担が増えたりするため、建物の管理者は消防法の無窓階についてよく理解しておくことが大切です。
そこでこの記事では「消防法の無窓」とはいったいどういう定義なのか、そして無窓と判定された場合には、どのような影響が生じるのかなどについて、消防設備点検のプロが初心者にもわかりやすく解説します。
【目次】
1. 消防法の無窓とは
2. 無窓階の定義
3. 無窓階だとどうなるのか
4. 無窓階と無窓居室の違い
5. 無窓階と普通階の違い
6. 無窓階判定は自己判定すべきでない
7. まとめ
1. 消防法の無窓とは
消防法の無窓とは、消防法施行規則で定められている「避難上または消火活動上において有効な開口部を有しない階」のことです。
一般的には無窓と呼ばれることもありますが、厳密には「無窓階」となり、特定のひと部屋だけを指すのではなく、当該部屋がある階(フロア)を指すことになります。
消防法における無窓階という定義を巡っては、消防設備士試験でも頻出問題とされています。よくある問題例として、無窓階の定義を問われることがありますが「避難上または消火活動上において有効な開口部を有しない階」と覚えておきましょう。
ひっかけ問題の解答欄には「消火活動上において有効な開口部を有しない階」や「避難上有効な開口部を有しない階」といった選択肢が用意されていることもあり、あくまでも「避難上または消火活動上において有効な開口部を有しない階」としっかり覚えておいてください。
無窓階かどうかを判定する際に鍵となるのが「開口部」です。開口部とは、火災発生時に消防隊員が建物内に進入しやすくするための間口のことで、開口部に対して面積や位置、さらには素材といった細かな規定が設けられています。
無窓階であるかどうかは、この開口部が基準を満たしているか否かで判断される訳ですが、開口部の基準を正しく理解することが、無窓階を理解することに繋がります。
無窓という言葉から、部屋に窓があるかどうかと想像しがちですが「避難上または消火活動上において有効な開口部を有しない階」という明確な定義があることを知っておきましょう。
2. 無窓階の定義
消防法の無窓階は、避難や消火活動の際に有効な開口部がない階のことを指しますが、より具体的な定義について解説します。
消防法における無窓階は、当該防火対象物の「11階以上」または「10階以下」で大きく2つに分けられます。
11階以上の場合
対象となる防火対象物の11階以上では「直径50センチ以上の円が内接できる開口部の面積の合計が床面積の1/30以下」の場合、無窓階になると定義されています。
後述する「10階以下の場合」と比べると、比較的わかりやすい定義と言えます。この理由は、11階を超える高層建築物の場合、消防車やはしご車といった車両を使った消火活動が現実的でないことが多いためです。
11階以上の建物にはスプリンクラー設備などをはじめとする、他の消防設備の設置義務が生じることから、必然的に無窓階に対する定義も緩くなる訳です。
10階以下の場合
対象となる防火対象物の10階以下の場合は複雑です。
・直径50センチ以上の円が内接できる開口部
・直径1メートル以上の円が内接できる開口部または幅75センチ以上かつ高さ1.2メートル以上の開口部が2つ以上
上記2つの条件に該当する開口部の合計面積を床面積で割り、その値が床面積の1/30以下となる場合は、無窓階になると定義されています。
10階以下の場合、「直径1メートル以上の円が内接できる開口部」または「幅75センチ以上かつ高さ1.2メートル以上の開口部」が2つ以上必要で、仮に1つしかない場合は、その段階で無窓階ということになります。
また、幅員1メートル以上の道路や空地に面していなければ有効な開口部とみなされない点にも注意しなければいけません。
この理由は、10階以下の場合は、消防車やはしご車による消火および救助作業が重要であることから、これらの緊急車両が停められる必要があるためです。
つまり、10階以下の場合は、開口部だけでなく防火対象物の外も無窓階判定の要因になると言えます。
開口部の位置
消防法の無窓階は、開口部の面積だけでなく、その位置も規定されており、規定を満たしていなければ無窓階の判定になります。
開口部の位置については、消防法施行規則において「床面から開口部の下端までの高さは、1.2メートル以内」と規定されています。
床面からの高さが1.2メートルを超えているような場合は、たとえ面積の規定を満たしていても有効な開口部として認められません。
また、先述したように「幅員1メートル以上の道路や空地に面していること」も重要なポイントですので、忘れないようにしましょう。
開口部の素材
消防法の無窓階に関しては「開口部の素材」も規定されています。開口部の素材とは、具体的には「ガラス窓」などが該当し、これらに対しても規定を知っておく必要があります。
開口部の建具素材として「網入りガラス」などが設置してある場合、消防法施行令が示す「容易に破壊することにより進入できるものであること」を満たせないため、無窓階の判定になります。
他にも、防音効果を有する10ミリ以上の厚みがあるガラスなども同様で、有効な開口部として認められません。
ただし、消防隊員が進入するための作業ができるような作業場としてバルコニーがあれば、必ずしも無窓階とみなされない可能性があります。
開口部の素材や例外規定などについては、自治体ごとに異なる火災予防条例によって変わるかもしれませんので、所轄の消防署に確認した方がよいでしょう。
ちなみに、開口部の素材として用いるガラスの厚みは「6ミリ厚」がひとつの目安とされています。鉄線入りガラス、網入りガラス、合わせガラスなどの多くは、開口部の規定を満たせないと考えてよいでしょう。
3. 無窓階だとどうなるのか
消防法の無窓階についておおよそどのようなものかが理解できたと思います。次に、気になるポイントとなるのが「無窓階だとどうなるの?」ということでしょう。
無窓階の判定を受けると、主に以下のような影響が生じます。
・避難や消防隊の進入が容易でないため危険(人命被害の可能性が上がる)
・消防設備の設置基準が厳しくなる
・消防設備導入コストの負担が増える
無窓階の判定を受けることは、分かりやすく言うと「避難上または消火活動上において有効でない階」となります。
つまり、火災発生時に人が避難できなかったり、消防隊による消火活動が困難になったりする可能性が高いということです。
避難や消火活動が困難な場所として判定されてしまう訳ですから、消防用設備を追加設置したり、それに伴う点検義務などが増えたりします。
消防法は、千差万別とも言える建物の用途、構造、間取り、そして収容人員といったことに対して、様々な規定を補い合うようにして適用されます。
仮に、無窓階と判定されたとしても、フロアごと利用できなくする訳にはいかないため、より厳しい消防法を適用させることで、建物の利用価値を守っているのです。
建物の改築やテナントによる改修の際には、無窓階に該当しないよう十分に注意しましょう。
4. 無窓階と無窓居室の違い
消防法の無窓階と混同しやすいものとして「無窓居室」があります。無窓階と無窓居室の大きな違いは、それぞれを規定する法律です。
無窓階については消防法であるのに対し、無窓居室は建築基準法の範疇になります。また、無窓階は、避難や消火活動の際に有効な開口部の有無で判定される一方、無窓居室は採光・換気・排煙・避難といった4つの基準を満たすかどうかで判定されます。
それぞれ同じ「無窓」という単語を含むため、その意味や基準を混同してしまいがちです。同じ無窓であっても、消防法および建築基準法で内容が異なることを知っておいてください。
5. 無窓階と普通階の違い
消防法における無窓階の反対の意味は、有窓階とはならず、正しくは「普通階」です。会話のなかでは有窓階と表現されることもありますが、消防法や消防設備士試験等では普通階と呼びますので、合わせ覚えておくと役に立つでしょう。
無窓階は避難や消火活動用に有効な開口部がないこと、普通階は無窓階でないことを指しています。
6. 無窓階判定は自己判定すべきでない
消防法の無窓階に関する判定は、消防法を理解したからといって、独自に判断すべきではありません。
なぜなら、自治体が定める火災予防条例の規定に独自の内容が含まれていたり、管轄の消防署が妥当と判断しなかったりする可能性があるためです。
例えば、消防法上有効な開口部が設けてあり、なおかつ建物の外に幅員1メートル以上の道路があったとしても、花壇やオブジェなどのせいで、消防隊員が進入しにくい場合は、有効な開口部と判断してもらえないかもしれません。
一方、建物の外にある花壇によって有効な開口部と認められないかもしれないと思っていたら、消防署が花壇は支障なしと判断するケースもあるようです。
このような、消防法だけでは判断できない「現場の状況」も無窓階判定の要因であるため、独自の判断はせずに、所轄の消防署や行政と入念に話し合うことが大切です。
7. まとめ
消防法における無窓階とは、避難や消火活動上に有効な開口部を有しないことで、開口部に関して面積、位置、そして素材などの規定があります。
これらは規定こそあるものの、実際に消火活動等にあたる消防署の見解も重要です。無窓階の判定については、消防署や消防点検のプロに相談するようにしましょう。
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