消防点検コラム

スプリンクラーの集熱板は廃止になった?防護板との違いを解説

スプリンクラー設備について調べていると「集熱板」という言葉を聞く機会があるかもしれません。

また、集熱板はスプリンクラー設備が作動するような事態の際に生じる、火災による熱を感知するために欠かせないものと説明されたことがある人もいるかもしれない。

この「スプリンクラーの集熱板」を巡っては、その意味や目的の誤った解釈が定着していること、さらには集熱板という言葉さえも使われなくなっていることをご存知でしょうか。

この記事では「スプリンクラーの集熱板」について、正しい意味や目的、廃止になった理由、そして設置基準などについて、消防点検のプロがわかりやすく解説します。


【目次】

1. スプリンクラーの集熱板とは
2. 集熱板および防護板の設置基準
3. 感熱開放継手とは
4. まとめ

1. スプリンクラーの集熱板とは

スプリンクラーの集熱板とは、スプリンクラーヘッドの根元部分に取り付けられていることが多い、円盤状または四角状の板のようなものです。

一般的な「お皿」を裏返したような形状をしているものがほとんどで、一見はスプリンクラーヘッドを傘のようにカバーにしている物に見えるかもしれません。

これまで集熱板と呼ばれ続けてきたことから、一部の人は「集熱板が熱を感知することでスプリンクラーが迅速に作動しやすくなる」や「火災時の熱気流が集熱板に集まってスプリンクラーが作動する」と信じ込み、スプリンクラーには不可欠な部品であると思っていることもあるようです。

しかし、実際には違います。スプリンクラーの集熱板は、集熱する効果や目的はなく、あくまでも、他のスプリンクラーヘッドからの被水(水を被ってしまうこと)を防ぐためもので、現在では「防護板」と呼ばれています。

つまり、スプリンクラーの集熱板は、その目的や役割、さらには名称そのものまで、本来とはまったく異なるものとして長らく定着している訳です。

1998年の消防法改正において、集熱板に関する規定は削除されたため、現在では消防法や消防設備士試験の教科書などには集熱板という言葉は登場しません。

一方、1998年以前までは集熱板という言葉が使われ続けてきたため、昨今においても一部の関係者の間では、集熱板という言葉が定着しています。

スプリンクラーの集熱板の役割

スプリンクラーの集熱板の役割は、対象となるスプリンクラーヘッドが正常に作動するように、隣接するスプリンクラーヘッドからの被水を防ぐことです。

先述したように、集熱板という名称ではあるものの、本来の目的はスプリンクラーヘッドの保護であることから、現在では「防護板」と呼ばれています。

事実、防護板を販売するメーカーのなかには「防護板(集熱板)」といったように、両方の名称を表記していることもあり、まだまだ正しい名称が浸透しきっていないことを示していると言えます。

昨今では、そもそも被水を防ぐ必要があるのかや、被水による影響はないといった事情から、防護板を設けること自体が少なくなり、集熱板どころか防護板としての役割も薄くなってきているのが実情です。

集熱板と防護板の違い

スプリンクラーの集熱板と防護板の違いは名称だけです。その存在理由や目的は同じであり、旧称を使用するか、新名称を使用するかの違いと考えてよいでしょう。

消防設備点検などの場面では、業界で長く活躍している先輩から「集熱板」という言葉を聞くことがあるかもしれませんが、1998年以降に消防設備士の資格を取得した若い世代には、集熱板がいったい何なのか伝わらないということもあるようです。

この記事を読んでいる方は、これを機会に「集熱板ではなく防護板」であることをしっかり認識してください。

また、その目的は「被水を防ぐため」のものであるが、形骸化しつつある物ということも合わせて覚えておきましょう。

集熱板が廃止になった背景

集熱板は、1998年に消防法が改正されるまでは、ラック式倉庫に用いるスプリンクラー設備に使用するという規定がありました。

ラック式倉庫のように、スプリンクラーヘッドの取り付け位置が高所になる場合は、火災感知が遅れやすいため、火災時に少しでも早くスプリンクラーを作動させる目的で集熱板を設けることになったとされています。

しかし、1998年の消防法改正にあたり、集熱板の効果が見込めないと判断され、集熱板に関する規定が削除されました。

これと同時に、集熱板は他のスプリンクラーヘッドからの被水を防ぐための措置として位置付けられ、今日に至ります。

スプリンクラーの作動に有用でないと判明した集熱板の役割を、被水防止に置き換えたことが、現在に続く混乱の元凶になっていると言えるでしょう。

集熱板に効果がないとされる根拠

集熱板に効果がないことは実験によって立証されています。2015年10月、一般社団法人日本消火装置工業会が実施した集熱板の効果を検証する実験において、集熱板を設置してもスプリンクラーの作動に影響がないどころか、集熱板を設置してある方がスプリンクラーの作動が遅かったことが分かっています。

月刊フェスク2018年2月号にこの実験結果が投稿され、同誌上でも「集熱板の集熱効果を確認することができず、むしろ集熱板を設けない方が作動の早い場合もある」と結論しています。

このように、スプリンクラーの集熱板および防護板は、集熱効果が見込めないこと、そして被水防止目的に位置付けが変わったこと、そしてこれら一連の動きと名称が一致しないまま定着したことを受け、今日では形骸化、実質的な廃止状態になっています。

参考:平成27年度第一部会技術分科会活動報告、一般社団法人日本消火装置工業会

2. 集熱板および防護板の設置基準

現在、消防法では集熱板または防護板の設置基準は規定されていません。この理由は、集熱板にはスプリンクラー設備を迅速かつ的確に作動させるための機能性が認められないこと、そして集熱板によって、かえってスプリンクラーの作動が遅れるといったことがあります。

まだまだ、集熱板または防護板の設置基準を知りたいという声があるようですが、現行の消防法においては設置基準が規定されていないことを知っておきましょう。

ただし、消防法とは別に、各自治体によって異なる「火災予防条例」で、昔のまま集熱板に関する規定が残っている可能性が否定できませんので、各自治体や管轄の消防署に確認することをおすすめします。

3. 感熱開放継手とは

これまで、スプリンクラーの集熱板は原則として「スプリンクラーヘッドが天井部から下方向に30センチを超えた部分」になる場合に設置しなければいけないという規定もありました。

先述したように、集熱板には集熱効果やスプリンクラーを素早く作動させる効果がないため、今ではこのような規定は存在しません。

一方、スプリンクラーヘッドが天井部から30センチを超えて下がった部分にくるケースや、スプリンクラーヘッドを下げざるを得ないケースは十分に想定されます。

具体的には、天井部にダクトが露出した状態で取り付けられている場合や、天井面に飾り天井(格子状のフレーム等)を付けているようなケースなどが該当します。

このような場合は、スプリンクラーヘッドから噴射される水が阻害されてしまうため、スプリンクラーの機能が十分に発揮されません。

これを回避するためには「感熱開放継手」を使用します。感熱開放継手とは、天井面やスプリンクラーヘッド周辺にある障害物を避けて、スプリンクラーヘッドを露出させる延長配管およびヘッド部分のことです。

スプリンクラーは感知部と散水部の2つが機能することで作動しますが、感熱開放継手を使う場合、感知部はそのままに、障害物を避けるようにして散水部を下方向に下げられます。

かつては、スプリンクラーヘッドが天井部から下方向に30センチ以上下がる場合は、集熱板の取り付けが必要とされていましたが、現在では感熱開放継手を使う場合であっても、集熱板および防護板は不要とされていることを知っておくとよいでしょう。

感熱開放継手は特例申請が必要

スプリンクラー設備に感熱開放継手を使用するケースは多々あると思いますが、感熱開放継手の設置工事は、あらかじめ所轄の消防署に対して特例申請が必要であることを覚えておいてください。

例えば、天井面に空調用ダクトを後付けした結果、スプリンクラーヘッドが隠れてしまう、あるいは、常設するラックがスプリンクラーヘッドを塞いでしまうようなケースでは、事前に所轄の消防署と協議のうえ、特例申請しなければいけません。

仮に、感熱開放継手を設置してスプリンクラーヘッドが正常に機能するようになっていたとしても、特例申請がされていなければ、消防設備点検の際に指摘され、問題が大きくなってしまう可能性があります。

すでにスプリンクラー設備があり、天井部に何かしらの改装を行う場合や、固定家具などを設置する場合は、十分に気を付けたいポイントです。

感熱開放継手の設置工事は、施工だけを依頼するのではなく、その業者が消防署に対して特例申請にも対応してくれるかどうかが大切なポイントになります。

4. まとめ

スプリンクラーの集熱板は防護板とも呼ばれ、昨今では他のスプリンクラーヘッドからの被水防止を目的として使用されています。

一方で、現在の消防法では設置基準が規定されておらず、その有効性や設置コストをかける意味などが疑問視されていることから、徐々に形骸化しつつある物ということも知っておきましょう。

スプリンクラーの集熱板を巡っては、旧態依然とした地域や、情報のアップデートがなされていない業者などが存在していることも事実ですので、最新の規定に沿って対応してくれる消防設備点検のプロに相談することをおすすめします。

 

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