COLUMN
2023.05.31
エレベーターシャフトの感知器には設置基準がある?
みなさんは「エレベーターの中には火災感知器が設置されているの?」や「エレベーター内の火災感知はどういう仕組み?」と考えたことはありませんか?
私たちが日常的に使用しているエレベーターは、火災発生時にとても危険な場所となるため、消防法や建築基準法によって厳しい制限が設けられています。
一方で、エレベーター内の火災感知器設備についてはあまり知られていないのも事実です。そこでこの記事では「エレベーターシャフトの感知器」について、どのような設置基準があるのか、そして消防点検に備えて何をする必要があるのかといったことについて、消防点検のプロが初心者にもわかりやすく解説します。
エレベーターシャフトとは
エレベーターシャフトとは、エレベーターの昇降機や昇降機が上下方向に動く際の空間のことを指しています。
このようなエレベーターや避難階段といった垂直方向に貫く区画のことを、消防法や建築基準法では「竪穴区画(たてあなくかく)」と呼び、火災発生時であっても、竪穴区画の外に延焼しないよう、周囲とは区切られています。
エレベーターシャフトにおいては、延焼を防ぐことを目的に、コンクリートや軽量気泡コンクリート(ヘーベル)などを用いる必要があり、単に区切ればよいという訳ではありません。
エレベーターシャフトをはじめとする竪穴区画は、火災の煙が流入すると、煙が一気に上部へ流れていくため非常に危険です。
そのため、エレベーターシャフトには、火災を感知するための煙感知器を設置することが義務付けられており、この煙感知器も6ヶ月に1回の機器点検、そして1年に1回の総合点検の対象になっています。
エレベーターシャフトに設置される煙感知器は、日常的に目に触れる機会が少ないため、盲点になりがちですが、点検対象であることを忘れないようにしましょう。
エレベーターシャフトの感知器設置基準
エレベーターシャフトに煙感知器を設置する際の設置基準は、以下のように規定されています。
・エレベーター昇降路、パイプダクトその他これらに類する場所(水平断面積1㎡以上のものに限る。)は、最上部に1個以上設けてあること。ただし、次の場合は設けないことができる。
・⒜エレベーター昇降路の上部に機械室があり、当該昇降路と機械室とが完全な水平区画がなく、当該区画に煙感知器を設けてある場合<
・⒝パイプダクトその他にこれらに類する場所が、2の階以下で完全に水平区画されている場合
・⒞開放式の廊下等に接続するエレベーターの昇降路等の場合
上記を要約すると「エレベーターシャフトの最上部に煙感知器を最低1つ設置すること」となります。
また、煙感知器を設置する際は「エレベーターシャフト頂部から600ミリ以内」にし、煙感知器点検口(点検用ボックス)を設置しなければいけません。
点検口を設ける理由はエレベーターシャフト外から安全かつ容易に感知器を点検できるようにするためです。
エレベーターシャフト頂部に設置する煙感知器は、実質的に点検口(点検用ボックス)とセットになっており、点検口(点検用ボックス)についても基準が規定されています。
点検口(点検用ボックス)の基準については、次で解説します。
参考:消防用設備等の試験基準及び点検要領の一部改正について、消防庁
エレベーターシャフトの点検口(点検用ボックス)の設置基準
エレベーターシャフトに煙感知器を設置すると同時に、点検時に安全かつ容易に点検できるよう「点検口(点検用ボックス)」も設ける必要があります。
建築基準法では、この点検口(点検用ボックス)を開閉したと同時にエレベーターが緊急停止するよう、連動の仕組み(スイッチ)が義務付けられています。
なぜこのような仕組みが必要かと言うと、消防点検の際に点検者がエレベーターシャフト内に転落したり、巻き込まれたりする事故を回避するためです。
エレベーターシャフトの煙感知器を点検する際は、あらかじめエレベーターを一時的に停止しなければいけませんが、何かしらの事情でエレベーターが停まっていなかったとしても、点検口を開けた瞬間に、人が利用中であってもエレベーターは強制的に停止する安全措置が取られている訳です。
ちなみに、建物によってはエレベーターシャフト頂部に点検口(点検用ボックス)が設置されていないことも考えられます。
このような場合は、消防点検の都度、エレベーターを管理する会社との連携が不可欠になります。(エレベーターの停止措置は消防設備士の管轄外)
参考:エレベーターシャフトに設置した点検ボックス内煙感知器の点検について
エレベーターシャフトに感知器を設置しなければいけない理由
エレベーターシャフトに煙感知器を設置しなければいけない理由は、エレベーターシャフトでは煙が充満および拡散しやすいためです。
エレベーターシャフトをはじめとする竪穴区画は、垂直方向に貫くようにして空間が広がっているため、煙が充満し、なおかつ猛烈な勢いで上昇つまり拡散しやすくなります。
この結果、竪穴区画を通じて火災による煙が建物内に広がってしまう可能性が否定できないことから、エレベーターシャフト頂部に煙感知器を設置しなければいけない訳です。
竪穴区画は他の区画と区分されているため、延焼しにくい構造ではありますが、万全を期すために煙感知器を設置することが定められています。
このような仕組みは「SFD(Smoke & Fire Damper)」にも共通していると言えます。SFDは排気ダクトなどを通して煙や炎が他階へ伝搬することを防ぐためのダンパー設備です。
キッチンなどの排気ダクトや、居室を繋ぐ空調ダクトなどは、煙や炎の伝搬経路になりやすく、火元以外での被害を広げる可能性があります。
エレベーターシャフトも規模の違いはあれど、ダクトと同様で、煙や炎の伝搬経路になりやすいことから、煙感知器を設置している訳です。
火災発生時にエレベーターを利用してはいけない理由
エレベーターシャフトに煙感知器を設置しなければいけないことが分かったと思いますが、防火管理者や建物のオーナーは、日頃からビル利用者に対して火災発生時にエレベーターを使用しないことを周知しなければいけません。
火災発生時にエレベーターを利用してはいけない理由は以下の通りです。
・バックドラフト現象が起きる可能性がある
・有害な煙の通り道になるため
・非常時に自動で停止するため
上記についてそれぞれ解説します。
バックドラフト現象が起きる可能性がある
火災発生時等にエレベーターを使用してはいけない理由は「バックドラフト現象が起きる可能性がある」ためです。
バックドラフト現象とは、エレベーターシャフトのように気密性が高い場所(酸素が多い場所)に、可燃性ガスである一酸化炭素が流れこむと、酸素と混ざり合うようにして炎が爆発することです。
炎や煙が充満しているような状態でエレベーターのドアを開閉すると、バックドラフト現象が起こる可能性が高いため、火災発生時はエレベーターを使用してはいけません。
そもそも、近年のエレベーターには安全機構として、火災感知器が火災を感知した時点で強制的に避難階に移動し、休止モードに切り替わる「火災時管制運転」機能が付いているため、エレベーターに乗ることは実質的には無理になっています。
しかし、火災時管制運転機能がない古いエレベーターや、古い建物の場合はこの限りではないため、日頃から注意喚起することが求められます。
有害な煙の通り道になるため
火災発生時にエレベーターを使用してはいけない理由には「有害な煙の通り道になるため」ということもあります。
先述したように、エレベーターシャフトは垂直方向に貫くようにして空間が広がっているため、煙の伝搬経路になります。(煙は水平方向よりも垂直方向に進むスピードが早い)
仮に、下層階で火災が発生した際に、上階からエレベーターに乗って避難するようなことがあると、エレベーター内に有害な煙が立ち昇ってくるようになります。
最悪の場合、エレベーター内で一酸化炭素中毒になるかもしれませんので、火災発生時はエレベーターを使わないよう周知しなければいけません。
非常時に自動で停止するため
火災発生時にエレベーターを使ってはいけない理由には「非常時に自動で停止するため」も挙げられます。
エレベーターの多くは、火災や地震といった非常時には自動で停止し、新たに人が乗り込むことができない「休止モード」に切り替わる機能があります。
火災発生時にエレベーターを使ったとしても自動で停止してしまうため、かえって避難に時間を要するかもしれません。
火災発生時は、一刻を争うような事態のことがほとんどでしょうから、エレベーターを使ってはいけません。
非常用エレベーターとは
高さ31メートルを超える、はしご車が届かないような高層建築物には建築基準法によって「非常用エレベーター」の設置が義務付けられます。
非常用エレベーターは、火災発生時等に消防隊員が消火や救助活動に使用するためのもので、他のエレベーターとは異なる防火区画の対象になっています。
また、非常用エレベーターは電源損失状態であっても稼働するように、自家発電設備等で電力を供給できるような仕組みであることも義務付けられています。
この他にも、エレベーターのドアが開いた状態でも稼働することや、消火活動に必要な装備を搬入しやすいこと、さらには乗降口の面積なども規定されていることが特徴です。
まとめ
エレベーターシャフトには煙感知器を設置しなければいけません。また、煙感知器を点検しやすいように点検口(点検ボックス)も用意する必要があります。
エレベーターシャフトは火災被害の危険度が高い箇所であるため、整備や点検などは消防点検のプロに依頼するようにしてください。
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