解説
2022.10.26
差動式分布型感知器の「空気管」を徹底解説
倉庫や体育館といった大型屋内施設の火災報知器として使用されることが多いのが差動式分布型感知器です。
この感知器は建物の天井や壁に張り巡らされる「空気管」と繋がっており、空気管が火災を感知して火災発報します。
空気管そのものは目立たず、ほとんど目にすることがないため、その大切さを知らずに過ごしている人は多いと思います。
この記事では、普段はあまり意識することがない空気管について、法定点検や防災対策に役立つ情報を交えて解説します。
【目次】
1. 空気管とは
2. 差動式分布型感知器(空気管式)の点検方法
3. 空気管について注意すべきこと
4. まとめ
1. 空気管とは
空気管とは外径約2ミリの銅製管のことで、差動式分布型感知器の熱感知の役割を担っています。空気管は建物内の天井や壁に張り巡らされるように敷設され、先端は感知器と繋がります。
火災が発生した時に空気管が急激な熱変化を検出することで信号が送信され、火災報知器が作動します。
一般的な家庭や共同住宅の部屋などで用いられる感知器を「スポット型」と呼ばれるのに対し、空気管を用いて幅広い範囲をカバーするものを「分布型」と呼びます。
空気管を使った分布型感知器は「ひとつの感知器で広範囲をまかなえる」ことが特徴です。その特徴を生かし、工場や体育館、発電所、倉庫といった大型屋内施設に用いられます。
なお、空気管の構造や機能については消防法(第二章第八条)で厳格に定められており、その仕様は、1本20メートル以上(繋ぎ目なし)、肉厚0.3ミリメートル以上、外径1.94ミリメートル以上です。
また、空気管は熱感知器としては最も高い「高さ15メートル未満」までを警戒できます。
仕組み
火災の熱により空気管内の空気が膨張すると、検出部のダイヤフラム部分(空気圧で作動する調整弁)も膨張し、これにより接点が触れて信号を発信する仕組みです。
空気管の仕組みをごく簡単に言えば「熱による空気の膨張を利用して信号を送る」と言えるでしょう。
一方、空気管が張り巡らされるのは倉庫や体育館といった建物であるため、日射や暖房装置といった外的要因によって温度変化が生じる可能性もあります。
このようなケースで起きる誤作動を考慮し、感知器には膨張した空気を逃がすためのリーク孔が付いています。(平常時に空気管内で空気が膨張しても一定量ならリーク孔から排出されるため発報しない仕組み)
空気管の仕組みは非常に単純なものですが、空気管が天井や壁に張り巡らされたセンサーのような役割を担っていると考えると分かりやすいでしょう。
設置基準
空気管を敷設する際には、消防法(P.75)で定められた設置基準に準拠する必要があります。
空気管の相互間隔については、建物の構造によって異なります。
・主要構造部を耐火構造とした防火対象物:9メートル以内
・その他の構造:6メートル以内
他にも以下のような設置基準が定められています。
・空気管の露出部:一感知区域ごとに20メートル以上
・空気管の接続長の全長:1つの検出部につき100メートル以下
・壁面からの距離:1.5メートル以内
・天井面からの距離:0.3メートル以内
また、空気管の取り付けについては、法定点検の際に目視による確認が容易に出来るように、5度以上傾斜させずに取り付けなければいけません。
敷設の際にはステップル等を使って35cm内の間隔で固定します。空気管を固定する際には張力がかからないように、緩やかにカーブさせるなど専門的な技術が必要です。
空気管同士を接続して使用する場合、スリーブを用いて接続部分をはんだ付けします。この際に、はんだが空気管に流入する流通不良が起きないようにしなければいけません。
耐用年数
一般社団法人日本火災報知機工業会によると、空気管を含む差動式分布型感知器の耐用年数は10年から15年とされています。
一方で、定期的な点検を実施し異常が認められなければ20年から30年ほど機能するケースもあります。とくに、空気管については余程のことがない限り、交換することはありません。
空気管よりも、感知器の方が故障しやすい(リーク孔の詰まり等)ため、10年から15年経過した物については用心した方が良いでしょう。
空気管や感知器の耐用年数については、建物の使用用途や立地環境、そして敷設状況によって大きく異なりますので、定期的な点検を欠かさないようにしてください。
2. 差動式分布型感知器(空気管式)の点検方法
空気管は差動式分布型感知器の一部であるため法定点検の対象です。また、日常的に誤作動が起きないように定期的な点検が推奨されています。
空気管の点検および試験は主に以下5つの方法が用いられます。
作動試験
空気管を通して感知器が作動するかの試験です。空気注入用試験器(テストポンプ)を使って実施します。(ポンプ試験とも呼ばれる)
感知器の試験孔に感知器が作動する指定量の空気を注入し、感知器が作動(発報)するかを確認します。
また、空気注入から作動するまでの時間を測り、規定の秒数かどうかも確認しなければいけません。
感知器が作動する空気量は空気管長やメーカーによって異なるため、感知器に記載されている数値を参考にしてください。
作動継続試験
作動試験により感知器が作動した瞬間から復旧するまでの時間を測定し、記録します。検出器に示されている規定時間内かどうかを確認します。
一般的には「作動試験」と同時に実施することがほとんどです。
流通試験
空気管にテストポンプを使って空気を注入し、マノメーター(正圧・負圧・差圧を測る測定器)で圧力差を確認することで空気管経路の漏れを判定します。
この試験は空気管単体でも実施できるため、空気管同士を接続した際などにも用いられます。
接点水高試験
ダイヤフラムの接点間隔が規定内かどうかを確認する試験です。ダイヤフラムが動作するまで空気を注入し、マノメーターの水高値が規定値内かどうかを確認します。
空気管が機能したとしても、ダイヤフラムが機能しなければ肝心の火災感知信号が発信されないため、欠かせない試験と言えるでしょう。
リーク抵抗試験
ダイヤフラム内の空気漏れを確認する試験です。感知器が示す規定値よりも数値が大きければ誤作動を起こしやすく、規定値よりも小さければ非常時に適切に作動しない可能性があります。
点検周期
空気管の点検は、消防法で義務付けられている「消防設備点検」のうち「警報設備」の一部に該当します。(住宅の場合は義務ではなく推奨)
消防設備点検は、消防設備士または消防設備点検資格者の資格を持つ者により「年に2回」実施しなければいけません。
空気管を含む警報設備の外観や機能を確認する機器点検は「6か月に1回」。すべての機器を作動させて機能を確認する総合点検は「1年に1回」です。
また、建物の用途ごとに異なるものの、定期的に最寄りの消防機関(消防長や消防署長)に報告することも義務付けられています。
特定防火対象物は1年に1回。(劇場、飲食店、百貨店、ホテル、病院、地下街など不特定多数の人が出入りする建物)
非特定防火対象物は3年に1回。(共同住宅、学校、図書館、神社・寺院、工場、駐車場、事務所、文化財など)
3. 空気管について注意すべきこと
空気管は火災を検知する重要な役割がありますが、周辺環境の影響を受けやすいことや、日常的なメンテナンスが難しいことに注意しましょう。
とりわけ、太陽光の影響を受けやすい建物や、風通しが悪い建物、さらには近隣に畑などがあって埃やチリ、土などが蓄積しやすい環境の場合は注意が必要です。
空気管について注意すべきことを解説します。
機能障害
最も注意すべきことは、空気管の機能障害です。
例えば、壁や天井を塗装する際に空気管までも一緒に塗装してしまうケースが挙げられます。リフォーム工事などの際に、空気管をペンキで塗装してしまうと感知障害を招く恐れがあります。
他にも、天井に設置してある空気管が潰れて変形してしまっていたり、途中で切断してしまったりするケースもあります。
建物の改修工事の際に気づかずに空気管を傷つけてしまったり、空気管に物をぶつけてしまったりということはよくあることです。
また、長時間にわたり直射日光を受けて天井付近の温度が上昇しやすい建物では、頻繁に誤作動が起こり、本来の機能を阻害してしまう可能性があります。
詰まり
空気管の内部に埃やチリが詰まることにも注意しましょう。
とくに風通しが悪い建物や、周辺で埃やチリが舞いやすい建物では注意が必要です。具体的には、倉庫や工場内で埃が舞いやすいケースや、幹線道路沿いの建物で排気ガスの粒子が蓄積するケースなどが挙げられます。
この「詰まり」による機能障害を理由に、空気管の全交換を迫る業者が多く問題になっていますので、合わせて注意しましょう。
漏れ
空気管からの空気漏れにも注意が必要です。
とくに注意すべきポイントは空気管と検出器の接合部で、はんだ付けが不十分な場合に空気漏れが発生してしまいます。
また、空気管先端の端子に付いている空気漏れ防止用のパッキンが外れている場合や、パッキンを取り付け忘れている際にも空気漏れが起こる可能性があります。
敷設前の流通試験や、定期的な流通試験により早期発見することがポイントです。
腐食
空気管の腐食にも注意しなければいけません。
空気管は銅製のため、鉄と比較して腐食しにくいとされています。しかし、強い酸化剤やアルカリ性物質などに触れる機会が多い環境では腐食する可能性があります。
日常で空気管が腐食するケースは稀ですが、水気が多い場所や海が近い場所では警戒した方が良いでしょう。とくに、空気管をつなぎ合わせた接合部に注意してください。
4. まとめ
空気管は差動式分布型感知器におけるセンサーのような役割がある重要な部分です。ひとたび敷設してしまえば日常的に触れることがないため、その存在を忘れてしまいがちです。
万が一、火災が発生した際に空気管が機能するように、空気管と感知器の点検および整備を怠らないようにしましょう。
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